ゲームと音の話




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中古ファミコンショップでファミカセ大人買いしたり、ドキドキしながらエミュレーターで遊んだりしたファミコンやメガドライブといった昔のゲームも、今やWiiのバーチャルコンソールなんかでばしばし遊べちゃう時代。あらためて昔のゲームに接する機会も増えて来て思うのは、「やっぱりよくできてんなあ」という事。技術進歩でウェブでもちょっと前のゲームならほとんど同じことができてしまうような昨今、一昔前のゲームのノウハウにふれてみると新しい発見があるかもしんない。やっぱりみんな、一番最初に「インタラクション」を強く意識したのってファミコンなんじゃないかなあと思うわけですよ。今モノつくってる人たちにあのカクカクのドット絵のトラウマが無いなんていわせないぞ!というわけで、今回はネットに散在する昔のゲームのアーカイブなんかを眺めながら、今回はざっくりと昔のゲームの「音」に焦点をあててダラダラと連想ゲーム的に書いてみようとおもうよ。

最近YMCKに代表されるような、ファミコンのピコピコサウンドを意識した音楽(いわゆるチップチューン)がちょっとアンダーグラウンドな所で注目されていたりするけど、やっぱりあのピコピコ音って、ある世代にとってはなんとも言えない魅力があるよね。ギャグでもなんでもなく、幼少期のほとんどをあの音を聴きながら過ごしたっていう人も沢山いるでしょう。

まずはいくつかチップチューンな事例を紹介。


Magical 8bit Tour / YMCK

チップチューン界の金字塔YMCKのファーストアルバム「ファミリーミュージック」から。ちなみに、YMCKのサイトでは、このピコピコサウンドをシミュレートできるVST/AUプラグイン「Magical 8bit Plug」をダウンロード可能。つまり対応シーケンスソフトさえあれば誰でもこの音が出せちゃう!



ファミコン風アニソンメドレー

ニコニコ動画でおなじみのアニソンをチップチューン風にアレンジしたものですね。はい。こういうのをいくつか聴いてて気がつくのは、単純に音色をピコピコ音にすれば良いというものではなくて、うまーくファミコン感を出すためには、音の構成要素を少なくするのが大事ということかと。当時のハードウェアもそんなにハイスペックではなくて、同時発音数も限られていたはず。だから、32分音符のアルペジオをつくって擬似的に和音っぽく聴かせたりとか(ピロピロピロピロって音ね...って全部ピロピロか)そういう工夫が独特の味になってるのが面白いよね。制限がスタイルを生むっていうのは、当時捨て値で叩き売りされてた浜松の楽器メーカーのリズムマシンが云々というような事例を紹介するまでもなくあらゆるジャンルの音楽で実証されている事だけど、それが8bitのプログラムの中にあったというのもいい話。

(もっとピコピコしたい人はyoutubeとかで"chiptune"とか調べてみるといいかも。それと、最近では任天堂のバーチャルコンソールのページでは、過去のいろんなコンソールの懐かしのゲームが映像で見れる。ってことはつまり音楽も聴けて、懐かしすぎて小1時間は遊べる。)


で、当時のサウンドプログラミングの状況とか調べてると、面白い話がいくつか出てきた。

高橋名人が語るボンバーマンとロードランナーの容量のお話 - ザオ陸 - かたみみ部
ここの記事で文字起こしされているゲームの容量についての内容がめちゃくちゃ面白い。


高橋名人
ロードランナーとナッツ&ミルクは16キロですから

ピエール
(笑)ナッツ&ミルク……

高橋名人
だから音…、ロードランナーの背景って黒いでしょ?

ピエール
はいはい

高橋名人
あそこのグラフィック書けないんですよ、メモリ使えないから
それで音だって、デデッテ デデッテ♪ でしょ?あれ以上作れないんですよ(笑)

ピエール
あー、そうですね

作家
そっか、音少ないですもんね

高橋名人
少ないなんてもんじゃないよ、あれ以上音入れたら、もうオーバーしちゃうんだもの

作家
そっかー、あれでギリギリなんだ

高橋名人
ギリギリ
……あれでね確かね、1ビットぐらいしか残ってないはずですよ

ピエール
(笑いながら)1ビットって! 1ビットって1文字ですもんね(笑)

高橋名人
そうそうそう
それで、頭からね、マシン語で入れていくんですよね。……プログラムを
だから、今で言う、コンパイラ使って 余分なコードを作ると、
それがもったいないからって、頭からマシン語 ぜーんぶ作ってって……

ピエール
刺繍みたいに作ってるんですね

高橋名人
そう、だからねー、よくやったなと

ピエール
……16Kですかー、すごいな……。16Kのゲームって……そうなんだ……。

高橋名人
あの頃のゲームはみんなそーですもん


ちょっと感動しちゃうようなお話。面白さはビット数に比例しない!なんて軽々しく言っちゃうけど、その裏にはありえないぐらいの苦労があったのね。そのデデッテ デデッテ♪がコレ(16:00くらいから)。そういえばゼビウスのBGMも単純なアルペジオのループだけだったけど、独特の世界観を演出していたなあ。またまた余談だけど、スーパーマリオブラザースの雲の形と草の形が同じなの知ってた?これもグラフィックをうまくつかいまわす工夫なんだよね。


で、そのスーパーマリオブラザーズの音楽をつくった任天堂の近藤浩治氏のGame Developers Conference 2007での話がめちゃくちゃ面白いのでさらに紹介。

ITmedia D Games:「音楽」はゲームに命を与える——任天堂サウンドはこうして作られた


1985年に発売された「スーパーマリオブラザーズ」では、マリオの走る姿やジャンプして飛んでいる時間を感覚的に捉えた結果、あのリズムになったのだとか。ハイハットの音はただのノイズのようで、3連符でバウンスしているのだが、メロディは八分音符のイーブンで流れている。その組み合わせによって、この曲はドライブ感が出せていると自ら分析する。
 このようにゲーム特有のリズムに合っていないと、ただのバックグラウンドミュージックのようになり、どこか別の部屋から流れているように聞こえてしまうからと、近藤氏は長年、内蔵音源でシーケンスミュージックにこだわっているのだとか。それは、生のバンドやオーケストラでは、その演奏者のリズム感になってしまい、ゲームと合わなくなることが多いからということもある。コンピュータのクロックに合わせてキャラクターが動き、ゲームが進むのであれば、音楽もそのクロックに合わせるのがしっくりくるという持論だ。


「コンピュータのクロックに合わせてキャラクターが動き、ゲームが進むのであれば、音楽もそのクロックに合わせるのがしっくりくる」
こ れ は す ご い。


音楽と映像がピタッと合うと気持ちいいっていうのをつきつめるとこうなるのか...この考え方をつきつめていくと、インタラクティブコンテンツの音楽はgenerativeなものにすると一番しっくりくるっていうことかな。昔のアニメなんかで、動きに合わせて音楽をくっつけることをミッキーマウシングっていうらしいんだけど、音楽の記号化(音楽の記号化っていうのは例えばバークリーメソッドみたいな話ね。このへんの歴史はこの本がわかりやすくて面白いよ)がこれだけすすんでくると、ある程度のルールを設定してあげれば、ゲームの展開にあわせてピッタリ、破綻しない音楽を生成させることもできそう。セルオートマトンの第一人者のStephen Wolfram氏の理論を応用したWolfram Tones(セルオートマトンでジャンル別に音楽が自動生成される!)なんかをみちゃうと、ついついそんな事を考えちゃう。

この話を見て思い出したんだけど、tha ltd.(そういえばティー・エイチ・エーって読むんだって最近知った)の手がけたサイトをみてると、かなり音楽的につくってるというか、音の演出がすごく上手だなあと思う。いわゆるクリック系グリッジ系っていわれそうなループをよく使っている印象なんだけど、Flashのインターフェイスでよくつかわれるピッとかピピッて音との相性がすごくいいのと、詳しくは分からないけど、プログラムのレベルでうまく音楽とシンクロするような構造でできてるんじゃないかなあ。今はもうおちてるみたいだけど、xboxのJUMP-IN.jpとかHondaSweetMissionではボーカルチョップ(prefuse73のファーストアルバムで一躍有名になった手法で、声の音源を意味が把握できないくらいの細切れに分割して再配置するやつね)をFlashでやっていて、クリック系のBGMとうまくシンクロしてるっぽい。(HondaSweetMissionもBGMのボーカルチョップは自動でやってるのかな?)最新作のUNIQLO_GRIDも、パーカッシブで面白いなあ。


で、記事の話に戻るけど、読み進めていくとさらに面白いことが書いてある。


ゲームがほかのメディアと違う点をリアルタイムに反応があることとし説明する。そして、我々はそのインタラクティブ性を活かしたサウンド作りをし、サウンドのアイディアを盛り込むことが重要と訴える。
 例えば、ファミコンの「スーパーマリオブラザーズ」で残り時間が少なくなると、音楽が早くなる。このようなプレーヤーの状況に合わせて音楽が変化させることは、他のメディアではできないことと一例に挙げる。
 このようにプレーヤーの行動に反応して音楽が変化する例として、「スーパーマリオワールド」を挙げる。この作品では、マリオがヨッシーに乗るとメロディにパーカッションが加わる。これは、パワーアップしたことを表現したかったのだが、曲自体を変えることもできたが、ヨッシーに乗り降りするごとにコロコロと目まぐるしく変わるではスムーズではなく、違和感ないようにしたかったと、こうしたアレンジを採用したのだとか。


そうそう、マリオがヨッシーにのると、パーカッションの音が鳴り始めるんだよなあ!時として聴覚って視覚以上に記憶にのこったりするから面白い。でもこれってゲームだけじゃなくて、ウェブのインターフェイスでも採用できる考え方だよね。僕は個人的にユーザーの行為によって音楽が移ろっていくというのが好きで、Flashでいくつかのループを並走させておいて、コンテンツが遷移するとフェーダーの抜き差しで音楽の展開をつくっていくという事をやったりしてる。(以前仕事でやったLISMOのサイト(その時のバージョンはもうおちちゃってる)や、最近手がけたコレとかで採用)このやり方は結構簡単にできるのでオススメ。これはループシーケンサーで作曲している人にはおなじみの手法かも。(OrbitalだったかRichie HawtinだったかがSubtract Compositionとか命名してたようなしてなかったような。)


近藤浩治氏関連で、こっちの記事も相当面白い。

Wii.com JP - 社長が訊く『スーパーマリオギャラクシー』

上記の講演では「内蔵音源でシーケンスミュージック」にこだわっていると言っていた近藤氏がオーケストラの音源をつかうことに。生録したデータは波形データだから効果音とかをシンクロさせるのは難しいはず...以下ちょっと長いけど音をシンクロさせる仕組みの部分引用。


横田
オーケストラをやるとなると、やっぱりお金がかかりますし、
はたして『マリオ』のゲームのテンポに合うのかという、
根本的な問題もありました。
最近のゲーム音楽は市販の音楽CDのように、
とてもクオリティの高いサウンドになってきているんですけど、
それがゲームにハマっているかというと、
ちょっと疑問に感じるところがあるんです。

近藤
まるで、ゲーム機とは別のCDプレイヤーから聴こえてくるような
音楽に合わせて、ゲームをプレイしているような感じがするので、
任天堂としては、生演奏の音楽はあまり使ってこなかったんです。

横田
自分としても、ただオーケストラをやりたかったわけではありません。
オーケストラの生の音を入れることで、スケール感を出すことができても、
ゲームのテンポが悪くなれば、逆効果だと思っていて。
ゲームをプレイしていて、ストリーミング・・・、
ストリーミングってわかりやすく言うとどういったらいいんでしょう。

岩田
事前に録音した音楽を垂れ流すこと。

横田
そうです(笑)。 今作では、
サウンドを垂れ流す方式を採用したのにも関わらず、
ゲームのテンポはよくなり、プレイに集中できるようになっています。
でも、その裏にはものすごい努力がありました。

岩田
そこで、プログラマーの川村さんの登場ですね。
どんなことをしたんですか?

川村
『マリオギャラクシー』の制作の前から、BGMに合わせて
自動的に効果音が鳴るような実験をコツコツと続けていました。
『風のタクト』では、敵に攻撃が当たると、
BGMに合わせてジャンと鳴ったりとか、
『ジャングルビート』のときは、ジャンプするたびに
BGMに合わせてサウンドが鳴るようにしたりとか。
今作では、そのシステムをさらに進化させ、
ストリーミングのサウンドにも応用できないかと実験を続けていました。
そこで、オーケストラの生データをもらって、ゲームに入れてみたら、
「これ、いける!」ということになったんです。

岩田
ストリーミングのデータ波形を読み取って、
効果音が鳴るタイミングをとるようにしたんですか?

川村
ちょっと専門的な話になりますが、
MIDIデータを
ストリーミングデータに同期させるようになっていて、
これを処理のタイミングに使っています。
たとえば、マリオがスターリングを飛び出すときに、
「♪タララララーン」ってハープが鳴るようになっています。
このハープの音が、BGMの曲にピッタリ合うように鳴るんです。
これは、なかなか気づいてもらえない技術なんですけど。

岩田
ハープ音のメロディが、
まるでBGMにとけ込んでいるかのように聴こえるんですね。

横田
その技術を実現させるために、
今回はオーケストラの方々にもかなりムリをお願いしました。
そもそも、ストリーミングの生の音楽は、
スタジオ内でのテンポで演奏されますので、
マリオの走るテンポとは、微妙にずれていくことが多いんです。
ゲームのテンポとは関係なく、音楽を流すようなことは、
どうしても避けたかったんです。
そこで、「カチッ、カチッ、カチッ」って鳴るような、
ゲームのテンポに完全に合わせたメトロノームのようなものを用意して、
「100パーセント、このリズムに合わせて演奏してください」
とお願いしました。


これはちょっと感動さえ覚える。遊んで気持ちいいカンジ、記憶に残るカンジって、単純に絵が綺麗とか、動きがスムーズっていうことだけではなくて、こういうパッと見て分からない部分の工夫の積み重ねなんだな。


で、なにやらチップチューンの話からはじまってコアな開発話のほうまで話が流れに流れてきてるんだけど、結局この記事で何が言いたかったかというと、ウェブのコンテンツはもっと音の演出が成熟してきてもいいんじゃないかなということ。やっぱりこういうゲーム屋さんの話を読むと、インタラクションに対しての意識が半端じゃないなあと思う。ウェブもある程度成熟してきて、インターフェイスデザインとかインフォメーションアーキテクトみたいな言葉が出てきたけど、結局はインターフェイスとしてどうユーザとのインタラクションを演出するか、という事で、カラムの位置がどうこうとか文字の拡大縮小ボタンがどうこうとか(もちろんそういう議論も大切だけど)だけではなくて、ユーザにインタラクトする一情報としてもっと音を使っても良いと思うんだよなあ。ただ、その時には映像みたいに映像と音楽を編集でつなげて...みたいな流れではなくて、どのように音楽が再生されるのか、どういう風に音が鳴るのか、そういう想像力を持ったコンポーザーが求められるんじゃないのかなーと最近思ったりしています。


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