ゲームとかアートの話




近頃表現のプラットフォームとしてゲームが気になってる。もともとは半ば飽和状態になりつつあるprocessing系の作品をぼんやりと眺めているうちに、「こういう作品群の面白さっていうのは、どちらかというとグラフィックそのものの美しさというよりは、その絵のうしろがわにあるシステムの面白さなんだよなー、でもそれが一番完成度高くできてるのってゲームなんじゃないの?」ってふと思ったことがきっかけなんだけど、色々調べるうちに色々と全世界的に面白い動きがあることがわかってきた。あまり考えはまとまっていないのだけど、今回は自分の頭を整理するために分類しておこうと思う。


■アートとしてのソフトウェア

アート作品をつくろうとしてプログラミングしたら結果的にゲーム(的)なものになっていた、あるいはゲーム作品をつくろうとしてプログラミングしたらアート(的)なものになっていた、っていう印象をうけるようなソフト。ハードウェアでいうとTENORI-ONあたりのハイブリッド感覚に近いものがあるかもしれない。


The Unfinished Swan


The Unfinished Swan - Tech Demo 9/2008 from Ian Dallas on Vimeo.

Jackson Pollockのようなアクションペインティングのプロセスのようであり、時間軸があることでそれが彫刻にもなる。Donald Juddとかのミニマリズムの系譜にのっかってきそうな作品。なんていうんだろう、ペンキの色と地の色の境界線によって空間がひろがっていく不思議な感覚。ゲシュタルト・ゲーム?この作品についてはこちらの記事がものすごく読み応えがあるので、あわせて読んでおきたい。


Gumonji

gumonjicycle.jpg

一見セカンドライフ的なメタバース系ソフトに見えるんだけど、Gumonjiのすごいところはキャッチコピーにもなってる「つながる環境シミュレーター」っていうところで、全世界が常に自然の法則によって循環が起き変化し続けてるというところ。環境変化も含めたまさにワールドシミュレーターという感じ。セルオートマトン(ライフゲーム、最近だと芝が生えるゲームとか)とか、砂の動きを二次元でシミュレートした粉あそびみたいなものを思い出すかも。セルオートマトンと物理シミュレーションってアイデア自体は大昔からあるけど、スペックがあがってきたこともあって成熟してきてる気がする。今後面白いソフトには何かしらの形で組み込まれてくる主要アイデアになるかも。


Audio Surf

あー、これはちょっと意図から外れるかもしれないな。mp3などの音楽ファイルを解析してゲームのステージとして組み立ててくれ、音楽にあわせてシンクロさせたゲームが体験できるというもの。昔ビブリボンっていう同様に音を取り込んでステージを組み立ててくれるソフトがあったけど、それをさらに進化させた感じで、音楽とのシンクロもかなりすごい。たまたま上の曲と同じものでビブリボンをプレイしてる映像が見つかったのでついでに紹介。この曲はギターの入り方とかアタック音がとりやすい感じだし、アップダウンがある曲だからシンクロ感がでやすいんだろう。


■マシニマ/リプレイ

最近のネットゲームってものすごいCGが綺麗で自由度も高いから、これでCG映画つくれちゃうんじゃね?って考え方ででてきたのがマシニマ。Wikipedia先生によると以下の通り。

マシニマ(Machinima)とは、マシンとシネマ、あるいはマシンとアニメーションを組み合わせた造語であり、主にビデオゲームのジャンルの一つであるファーストパーソン・シューティングゲーム (First Person Shooter, FPS)のグラフィックエンジンを用いて作られるCGI映画である。 マシニマは通常作られる大作CG映画と違い、あるPCゲームのグラフィックエンジン、ゲームエンジンを用いて作られ、そのゲームに備えられているリプレイ機能、スキン変更機能、カメラアングル変更機能などを用いて映像を撮影し、撮影後に音声をつけるという形を取るので、制作費が低く抑えられるという特徴がある。

たぶん言葉自体はセカンドライフとか流行らせようとしてたデ○ハリとかが流行らせようとした感じが先攻してて、あんまり市民権は無い気がするんだけど、考え方はすごく面白いと思う。これって、まさにゲームを表現のプラットフォームとして利用しちゃうってことだよね。ニコ動とかであがってる実況系映像も面白いけど、個人的には演出に手が込んでるものもあってマシニマのほうが可能性があって好きかな。いくつか気になったマシニマ作品をピックアップしてみた。


BMPワイド劇場

BattleField2というゲームを使ってつくられた作品。BMPというグループがつくってるシリーズものみたい。演出が面白い。


1K Project

3K Project

Track Maniaっていうレースゲームの数千回分のリプレイ動画を一気に再生した映像。すごく独特で綺麗な映像になってる。このシリーズは2年くらい前にもこの記事で紹介したけどもう一度紹介。


■物理シミュレーション

マシニマとかリプレイとちょっと違って、精巧な物理シミュレーションを特徴するゲームを利用して、現実世界ではなかなかできないようなことをして遊んでいる映像。後で紹介するLittle Big Planetの遊び方とも近いかもしれない。


HalfLife Domino

HalfLifeというFPSゲームでいろいろな小道具を組み合わせてドミノをつくってみたよという映像。やっぱりまずこういうことやろうとするよねw


Crysis Mass Physiscs

精巧な物理シミュレーションで有名らしいCrysisというゲームで無数の段ボールをくみ上げて破壊する映像。音楽ともマッチしてて気持ちいい。これで十分PVつくれると思う。最初みたとき、思わず「SUGEEEEEE」って声出た。


Crysis 3'000 barrel explosion

これもCrysis。上の映像と同様のコンセプトで、こっちでは3000個のドラムカンを様々な方法で破壊。空に散らばる様子が綺麗。このシリーズを見るといつも思い出すのは、Pleixが手がけたKid606のPV。おそらくNYのWTCのテロをモチーフにしてて、そのあたり賛否両論あるかもしれないけど、破滅の美しさ、というのは確実にあると思う。

Sometimes / Kid606 Dir.Pleix


最後に一時期ニコニコ動画で話題をあつめた全自動マリオ。これもマリオのゲームの中の物理現象ベースにハックしたステージで「計算された偶然」を展示している作品群。実は後で紹介するゲームの中でアートを展開しようとしている試みとも共鳴するすごく価値のあるものだと思ってる。

組曲『ニコニコ動画』 全自動マリオVer


■Little Big Planet

で、頭っからプラットフォームとして使われることを想定した画期的なソフトがLittle Big Planet(以下LBP)だと思う。自由度の高い物理シミュレーションのプレイグラウンドとしてはPhunみたいなものがあったけど、グラフィックはもちろん、来る事が格段に違うし、ここにキャラクターが入ることでより面白いものになってると思う。PS3ならではって感じ。


Little Big Computer

LBPで巨大な機械式計算機をつくっちゃった人も。最先端のCPUを搭載したゲーム機を使って8bitの計算機を作るってのが強烈すぎて目眩すら感じる。


リトルビッグプラネットでグラディウス1面

日本人も負けてられるかってことで職人芸が炸裂。いろいろな仕掛けを組み合わせて「グラディウスごっこ」を組み立ててしまった人も。


これはさらに演出が入ったもの。LBPで空へのロマンが炸裂しまくる動画。試行錯誤の様子がコメディ風の仕立てになっててすごくよくできてる。


なんかもう、ここまでくると物理現象そのものが面白いんじゃないか?という事になってくる。(もっと言うと、想定した物理現象が筋書き通りに流れて行く/試行錯誤する、という過程が面白いんだと思う)トランプを組み立ててしたの一枚を抜くと崩壊する、風船を膨らませて空に飛ぶ、ただそれだけで面白い。最近ネットで見かけた現代アートの作品の中でも、物理現象をそのままパッケージしている作品があって、それも面白かったので、ちょっと脱線するけどいくつか紹介しておこう。


Buckets & Balls / Artist. 田中功起

ボールとバケツをめぐる物理現象を淡々と記録している。


Machines that Almost Fall Over / Artist. Michael Kontopulos


Machines that Almost Fall Over from Michael Kontopoulos on Vimeo.

装置そのものが自分自身を倒そうとするんだけど、それが常にギリギリのバランスになるようになりたってる。「ギリギリ」という物理現象をパッケージ化して展示してる作品。Jeff Koonsの有名な作品に、新品の掃除機を箱の中に入れて展示して「新しい」という概念を展示する、ってのがあったけど、あれに近いような。


Actions / Artist. William Lamson

actions.jpg

風船をどのように破裂させるか、というプロセスを展示している。HITPAPERにインタビューが乗ってたけど、作品同様つかみどころがないなんだか不思議な印象。


他にもFischli and Weissの「事の次第」(あるいはピタゴラ装置)、Erwin WurmのOne Minutes Sculptureのコンセプト、Steve ReichのPendulum Music、あるいは横山裕一の漫画とかもこの系譜かも。


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ニュー土木 (Cue comics)
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4 すごい動き
5 天然、かつ計算あり。
4 新しい。


■ゲームの中のアート

次は、ゲームっていうある種のシミュレーション環境の中でアート活動を行う(というパフォーマンス)、あるいはその環境をハックして特殊な環境をつくる(というパフォーマンス)というような複雑な構造の作品群。


Unreal Art / Artist. Alison Mealey

unrealart.jpg

これは傑作。UnrealというFPSゲームの中を、20-25人分のAIをプログラムした通りのルートをお互い戦わせながら約30分間自動的に歩かせて、その軌跡をprocessingでグラフィックにおこすというもの。いわばGame Generated Artwork。プログラムは様々な人物のポートレートを描かせるようにプログラムされているんだけど、シミュレーション環境でお互いのAIが干渉する中で輪郭線はぼやけ、不思議な質感のポートレートになる。すごく深くて、すんごく美しい作品。ここに英語のインタビュー記事があった


DeResFX.Kill(KarmaPhysics < Elvis) / Artist. Brody Condon

elvis_physics.jpg

Unreal でキャラクターが死ぬときの痙攣運動をエルビスプレスリーの格好をしたキャラクターが延々とし続けるという作品。この動きはUnrealに搭載されているラグドール物理演算という物理シミュレーションを利用しているんだけど、当時この表現がリアルすぎるということでドイツで使用が禁止されたという、曰く付きの演算処理。死に関する奇妙な噂が絶えないエルビスプレスリーをモチーフにしているという点。痙攣が踊りのように見える点とか、色々示唆してるものは多そう。ちょっと心配になる感じの作品。


Howl: Star Trek Elite Force Voyager Online / Artist. Joseph DeLappe

howl.jpg

スタートレックのオンラインゲームの中でアレン・ギンズバーグの「吠える」を朗読するというパフォーマンス。この人は他にもFPSゲームとアート、政治、戦争をテーマにした作品をいくつか制作している。


Photography in Secondlife

secondlifephoto.jpg

セカンドライフで「写真」を撮っているMarco Manray(おそらくアバター名)というアーティスト。CGを写真として捕らえるというのが一つ次元があがってる感じがする。展示もセカンドライフ内でやってたりする。


■日常をゲームに置き換える

現実を模倣したゲームの世界観を逆に現実世界で再現しようという視点でつくられた作品群。視点や、動きといった、ちょっとした不自然なところ(ルール)に目をつけてそれを現実世界で再現することで、ゲームの世界の違和感をあぶり出してる。


Second Life / Dir. Eric Lavenac

ちょっとした皮肉めいていて面白い。実際の人間でセカンドライフを模倣してる映像作品。広告代理店Draftfcbの広告。


First Person Shooter / Artist. Aram Bartholl

FPS(First Person Shooter)の一人称視点でおなじみの、手前に銃を持っているシーンを眼鏡につけて、現実世界が全部FPS風に見えてしまうというもの。シンプルだけど面白いアイデア。


Avator Machines / Artist. Marc Owens


Avatar Machine [LONDON] 2008 from MARC OWENS on Vimeo.

これは上の作品と似た発送だけど、仕掛けがずっと凝ってるもの。自分の頭上からの映像をヘッドマウントディスプレイに送って、アバターの視点で世界が体験ができるマシーン。昔のFPSにあったようなパースにゆがみみたいなのも再現されてて面白い&気持ち悪い!


The Screenshots / Artist. Jon Haddock

thescreenshot.jpg

歴史上の有名な場面や映画の名シーンを、昔の洋ゲーによくあるアイソメ図法で描いたもの。以前こっちの記事でクオータービューの視点について少し書いたけど、やっぱり「神の視点」という印象が強いな。ちょうどこの作品群は、神が下界っていうシミュレーション環境のイベントのスクリーンショットを撮った、っていう感じ。


アメリカではAmerica's ArmyっていうFPSゲームがアメリカ陸軍の広報予算で開発されちゃったりしてることとかからもわかるように、ゲームの社会的影響力に意識的な人たちがかなりいて、だからこそこういう作品がいろいろでてくると思うんだけど、日本だとなかなかこういう作品見ない印象があるのはどうしてだろう。言わずもがなアニメとか漫画をモチーフにした作品は多いよね(最近のびアニキが気になるよ!)でもゲームに関しては、8bitの世界へのノスタルジーはあっても、現在進行形の問題としてあまりでてきてない気がする。美少女ゲームをモチーフにした作品とか出てきそうな気はする。もうあるかもしれないけど。


このあたりについて色々調べているとホントにキリがないんだけど、海外でGame Scenes. Art in the Age of Videogamesっていう面白そうな本がでていて、これには上で紹介したようなアーティストの作品がまとまってる。日本のAmazonでは来年2月まで手に入らないみたい。


Gamescenes
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Matteo Bittanti
Antique Collectors Club


この本の中でもフィーチャーされてるMiltos Manetasというアーティスト(一番最初の方でJackson Pollockのサイトをつくったのはこの人)が2000年にNEENっていう言葉を開発して一連の作品をひとまとまりにしているんだけど、(多分村上隆が「スーパーフラット」って言葉をつくった時みたいなものか)そこで紹介されているアーティストの中に不思議な質感のFlashを1作品1ドメインで沢山つくってるRafael Rozendaalとか、以前この記事で紹介したOliver Laricが名前を連ねていてかなり面白いので、また時間があるときに調べてみようと思ってる。


Neen
Neen
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Charta
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