キャンペーン・スクワッティング




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今日はちょっと仕事に関連する話なんかをしてみよう。最近のインターネット広告業界では、何らかのキャンペーンをやるときに、TwitterやブログやSNSにいる様々なユーザをどうやってキャンペーンに巻き込んでいくか、というような、いわゆるソーシャルメディアに関する議論が盛んだったりする。

いろんな企業が広告をする時にソーシャルメディアをどう扱っていこうか、みたいなことを考えてるわけだけど、わりと最近よく見かけるのが、企業側が一方的に情報を配信するようなコミュニケーションではなくて、例えばその商品が好きな人たちや、興味をもった人たちがサイトを通じてゆるいコミュニケーションをとったり、はたまた商品とは全然関係なく単純に遊べるコンテンツだったり、コミュニティを形成できるような、ネットの人たちをうまくとりこんでいく戦略。(そもそもこの議論はソーシャルメディア云々の議論以前から存在していたとは思うのだけど、こういうコンテンツやコミュニティがShareされるプラットフォームが出そろったところでこのへんの議論がもういちどでてきてる感じがする)

これはつまり、すごーく乱暴に説明すると、該当するターゲットがおもしろがってくれそうな、企業のブランドマークがはいった砂場を用意しておくと、普段ネットでアンテナ張り巡らせている人たちが集まってきたり、人に広めたりしつつ、適当に遊んでくれる。で、砂場で遊んでくれるユーザが多ければ多いほど、その企業との絆(エンゲージメントとかいわれてる)が深まるっていうようなロジックで成立してたりする。(実際には、いわゆるよくできたインタラクティブキャンペーンとかいうものは、上記のようなロジックをベースにひきつつ、ユーザーとブランド、商品の接点をどうデザインするか、そして話題をどう伝播させるか、というところが緻密に考えられている、ということになってる。)

で、最近面白いなと考えているのは、こんな感じで企業が不特定多数のユーザに砂場(プレイグラウンド)を提供すると、そこで予想外な使い方をする人がでてきたり、やんちゃなことをする人たちが突然現れたりしていること。


■IS Paradeデモ化事件

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一つは、つい先日公開された「IS Parade」これは最近増えてきたTwitterのAPIで取得したデータをビジュアライズするジェネレーターモノで、TwitterIDやKeywordを入力するとその検索結果が、似顔絵チャンネルミーツHalfbyってな感じの楽しくて可愛いテイストでキーワードのヒット数分の人数のパレードになって出てくる。このサイトは実はKDDIのISシリーズっていうスマートフォンのキャンペーンサイトの一部。このサイトで昨日、ちょっとおもしろいことがおきていたことがわかった。

'isparade'というツイッターデモ行進サイトを利用して、11時30分現在、600人 ほどのツイッター使用者が『MBC労組死守』、『公正放送』、『キム・ジェチョ ル退陣』等を要求してデモ行進をしている。所々『無限挑戦死守』、『PD手帳 死守』等、番組正常化を望む主張も目につく。参加方法は『http://isparade.jp/60217』にアクセスした後、左下段のキーワー ド『MBC死守』を入力した後、STARTすればいい。 -『MBC労組死守』ツイッターデモ http://www.labornetjp.org/worldnews/korea/strike/2010spring/1273234321099Staff

韓国のテレビ局の労働組合がIS Paradeを活用してTwitter上でデモを決行してしまった。「パレード」が「デモ」になってしまったわけだ。これでオンラインデモをしようとした人はホントにすごいな。日本の企業のキャンペーンサイトがデモに使われるなんてまったく想像がつかない。(上記の記事でもすっかりTwitterのユーティリティサイトとして認識されてしまっているように、はたしてこのサイトが「ISシリーズ」の広告として成立し得るかというのは議論がわかれるところかもしれない、ドメインも別だしね。ただしソーシャルメディア上に「砂場」を提供しているのは間違いない。)

こんな感じで、企業がつくったキャンペーンサイトを別の趣旨で活用されてしまった事例をもう一つ。


■UNIQLO_(SUPER)GRID

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UNIQLO_(SUPER)GRIDは、UNIQLOが新しいロゴを発表した時にグローバルで展開したUNIQLO GRIDというキャンペーンサイトを「乗っ取る」プログラム。プログラムが稼働している間はbot宛に送られたメッセージを延々とUNIQLO GRIDを操作して描写しつづけていた様子。



たぶんUNIQLO側は、GRIDあつめたりばらしたりするノンバーバルなコミュニケーションだし、そうそう想定外なこと(脅迫につかわれるとか、政治的なメッセージを書き込まれるとか)には利用されにくいという風に工夫されているのだと思うんだけど、UNIQLO_(SUPER)GRIDによって、どんなメッセージも表示できるようになってしまったというのは、色々な意味で想定外だったんじゃないだろうか。現在は作品稼働終了とのこと。(プラットフォームのルールにのっかったbotをプログラムして何かを描写させるという手法といえば、以前「ゲームとかアートの話」という記事で紹介した、UnrealというFPSゲームの上でbotを動かしてポートレートを描くUnrealArtを思い出したなあ。)


こうした現象を勝手に「キャンペーン・スクワッティング」と名付けてみたい。スクワッティングは占領という意味で、イギリスなんかで廃墟や農場を不法占拠してそこに住み込んだりレイヴしたりする行為を指す。企業のコミュニケーションがソーシャルメディアに寄り添えば寄り添うほど、こうしたキャンペーンスクワッティングは発生する可能性が高そうなので、みんなも今後観測しとくと面白いかもしれない。


ちなみに、サイバー・スクワッティングというちゃんとした用語もあって、これはドメインを高値譲渡することを目的にドメイン名を先取りしちゃう行為を示す。キャンペーン・スクワッティングの視点でサイバー・スクワッティングを考えると、「先取り」というよりは「後取り」のほうがタチが悪いような気がする。今はすでに対策済みのようだけど、その昔AXEが展開した"AXE WAKE-UP SERVICE"という話題ののキャンペーンが展開されていたドメインが、キャンペーン終了後失効、その後何者かによって取得され、トップページは"AXE WAKE-UP SERVICE"のキャンペーン終了をお知らせする体裁をとりながら、メタタグに某宗教団体の代表の名前が記載されるというちょっと恐ろしいことがあった。あるいは、Dreamcast.comというドメインを何者かに取得され、メールアドレス収集に利用された(http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20080310_still_dreamcast/)なんていう事例もある。

キャンペーンサイトはその特性上、バナーなどによって大量の流入を図ることや、話題になるための様々な工夫がほどこされている場合が多い上に、キャンペーン期間が終わると失効するケースがおおいから、アフィ目的なんかでドメインの乗っ取りをするには相当都合のいい物件なんだよね。あらかじめページランクが高いサイトが大量のリファごと流用できるんだから。キャンペーンサイトで独自ドメインをとる場合は、そのへんのリスクも管理したほうがいいかも・・・!

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