翻訳の面白さ




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翻訳という行為を拡大解釈するという考え方が気になっている。単純に言語から言語への翻訳だけではなくて、言語から図へ、図から図へ、言語からもっと何か他のものへ...何かしらのルールに従って表現の仕方を変換してみるということ。そしてその翻訳のプロセスの中で新たに付加される情報、抜け落ちる情報に注目してみると、すごく興味深い。今回はそうした視点で分類できる面白い作品がいくつかあったので紹介してみるよ。


まずは物語や歌、詩を図に翻訳するという例をいくつか。ある意味ビジュアライゼーション。いわゆる一般的にビジュアライゼーションといわれているものは「データの図への翻訳」といえるのだけど、以下の例は文章を図にするという点でさらにハイコンテクストでそれをやってて、すごく面白いものになってる。


■ラップをグラフで表現

rap represented in mathmatical charts and graphs
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"All I need is 1 Mic"

既存の曲をグラフに無理矢理落とし込んだもの。図を読み込んでいくと、それぞれ曲のリリックの一部になってることに気づく。(グラフをクリックすると元ネタのビデオに飛ぶようになってる)いわばこれはラップを図に「エンコード」したものを、再度「デコード」する遊び。図を読み込むという作業を経ることで言葉でいうよりも深く理解できたような気分になるのが面白い。もしかしたらこれを読み取れたのは僕だけなんじゃないか!?っていうMMR的ロマンチシズム。(な、なんだってーー!!!!)


■詩的な図

Indexed
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"Sell something wonderful"

このブログはそうしたエンコード・デコードのあそびをずっと更新しつづけてるブログ。詩とビジュアルの中間、という言い方をすると、これはとらえようによっては「コンクリートポエトリー(具体詩)」と近いものかもしれないとも思ったりする。詩とイメージの関連については北園克衛についてかかれたここのページが詳しいので、後でちゃんと読んでみようと思う。


■物語としてのフローチャート

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「あたし状態遷移図」、あるいは「あたし約5.2MB」

で、思い出したのはこれ。ケータイ小説大賞の「あたし彼女」の独特の文体を解析して、状態遷移図に変換したもの。Graphvizってソフトでつくってるみたい。すごく美しい。佐藤雅彦の「計算の庭」はクリアしたときに状態遷移を印刷してくれるんだけど、あれと同じ感じ。迷路あそびのような、プロセスを指でなぞる楽しさ。


■詩を図にする

以前こっちの記事でも紹介したけど、これも詩を図で表現して、朗読をプレゼン風にしたもの。あえて無機質な表現をすることで逆にロマンを感じるよね。


■なんでもプレゼン資料化

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どうでもいいことをプレゼン資料にする

これは上記の作品と近しい考え方をした企画だと思う。プレゼン資料にありがちな文法を解釈するところからはじまっていて、プレゼン資料という言語を理解した上で、何でもないことをプレゼンに翻訳している。


■翻訳エクストリーム

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スーパーのポップをCD屋風にする

デイリーポータルはこの手のネタの宝庫。しかもどれもやりきってる感じがする。これは、スーパーのポップをCD屋のアオリ風に翻訳。これはスーパーのポップとCD屋のポップがそれぞれ成立しているルールを読み取って翻訳する必要があるのでかなり高度な翻訳。読み取るほうにもそれなりにリテラシーが要求されるけど、リテラシーが必要な分、わかる人には共感も大きいよね。「あるあるw」でつながる感覚というか。

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日常生活を法廷風スケッチで

これも「法廷風スケッチ」というスタイルを解体した上でないとできない翻訳。面白い。こういうパロディと真面目の中間みたいな表現が好きだなあ。デイリーポータルやっぱり面白いなあ。

あらゆるメッセージには、それを伝えるのに適したスタイルがるとして、あえてそのスタイルを別のスタイルに置き換えることで、また違ったメッセージや面白さがたち現れてくるというのは面白い。あたらしいメッセージに対して、まったく新しい伝え方を考える、というのも一つのやり方なのだけど、こんな風に表現の仕方を意図的に別のスタイルから借用/誤用してみることでメッセージの中身をより印象的にしていくやり方もアリだと思う。


次に、冒頭のラップを図式化する作品と同様にラップに注目しつつ、また違った方向に翻訳を展開した作品を紹介してみる。


■やんわり翻訳

まずは元ネタから。DoseとMothというラッパーのフリースタイルラップバトル。かなりアンダーグラウンドでか、めちゃくちゃガラ悪い感じのビデオ。

最後は乱闘にまでなっちゃってる。もう、なんか体育館みたいな会場からしてゲローな感じで極悪だよね。で、極悪な元素材を、逆に「ものすごく礼儀正しい丁寧な言葉」に翻訳するとこうなる。

一見ギャグだけど、スラングやリズムなどをそぎ落とした時にラップに何が残るかっていうところを考察したいい作品だと思う。最後にインサートされる曲が指し換わっているところも芸がこまかくて最高。


■うろおぼえ翻訳

関連して、人間ならではの「うろおぼえ」を利用した面白い翻訳作品を紹介。「女友達が、ガンダム知ってるっていうから教えて貰ったついでに動画にしてみた。」ってコンセプト。コンセプトがめちゃくちゃ面白い上に、結構よくできてる。ティキトゥトゥントゥン♪ってシンセスネアの音が「わかってるなあ」って感じ。



おぼろげながら立ち上がってくる物語の輪郭と、適当すぎるディテール!まさにロストイントランスレーションだよね。「これはメカではないかー!」ってとこ好き。


いろいろとりあげてみたけど、翻訳って視点で見てみるといろいろ面白い作品があることがわかってよかった。そのへんをみながら最近考えているのが、自動翻訳のapiを使って言葉を世界一周させたときにどんな風に言葉が壊れていくのかっていうこと。日→中→英→仏→...→日ってもどってきたときに、その文章はおぼろげに原型の輪郭をのこしつつもボロボロになると思うんだけど、そこで残る輪郭や、ぬけおちていった情報について考えるといろいろ作品のヒントがありそう... なんて話をtwitterでしてたら、saqoosha先生がyahoo pipesで同じようなものつくってた!というわけで早速谷川俊太郎の「朝のリレー」を世界一周させてみた。

カムチャッカの若者が きりんの夢を見ているとき
メキシコの娘は 朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女が ほほえみながら寝がえりをうつとき
ローマの少年は 柱頭を染める朝陽にウィンクする

この地球では
いつもどこかで朝がはじまっている

ぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと
そうしていわば交替で地球を守る
眠る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚まし時計のベルが鳴ってる
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ
When the Kamchatka young person looks at the dream of the giraffe,
The Mexican daughter waits for the bus in the morning fog
While the New York girl smiling, sleeping the collar the [u] the time
The Roman boy winks to morning positive the stigma is dyed

With this earth
Always morning has started somewhere

As for me morning is relayed
From longitude to longitude
In that way, in a manner of speaking the earth is protected with alternation
Before sleeping, one time the ear is done, when it increases
Somewhere being far, the bell of the alarm clock sounding, the [ru
As for that the morning when you send
It is the evidence which someone caught securely
Όταν το Kamchatka νεαρό άτομο εξετάζει το όνειρο giraffe,
Η μεξικάνικη κόρη περιμένει το λεωφορείο στην ομίχλη πρωινού
Το χαμόγελο κοριτσιών της Νέας Υόρκης, που κοιμάται το περιλαίμιο ο [u] χρόνος
Το ρωμαϊκό αγόρι κλείνει το μάτι στο θετικό πρωινού που το στίγμα είναι βαμμένο

Με αυτήν την γη
Πάντα το πρωί έχει αρχίσει κάπου

Όσον αφορά σε με το πρωί αναμεταδίδεται
Από το γεωγραφικό μήκος στο γεωγραφικό μήκος
Με εκείνο τον τρόπο, σε έναν τρόπο της ομιλίας της γης προστατεύεται με την εναλλαγή
Πριν από τον ύπνο, ένας χρόνος το αυτί γίνεται, όταν αυξάνεται
Κάπου όντας μακριά, το κουδούνι του ρολογιού συναγερμών που ηχεί, [RU
Όσον αφορά σε αυτόν το πρωί όταν στέλνετε
Είναι τα στοιχεία που κάποιος επίασε ασφαλώς
When Kamchatka young individual examines the dream giraffe,
The Mexican girl waits for the bus in the fog of morning
The grin of girls of New York, that sleeps the collar the [u] time
The Roman boy closes the eye in positive morning that the stain is dyed

With this ground
Always the morning has begun somewhere

With regard to in with the morning it is broadcasted
From the geographic length in the geographic length
With [ekeino] [ton] way, in a way of speech of ground it is protected with the alternation
Before the sleep, one year the ear becomes, when it is increased
Somewhere being far, the bell of clock of alarms that sounds, [RU
With regard to in this morning when you send
Are the elements that somebody it touched certainly
カムチャツカ半島の若い個人が夢のキリンを検査する時、
メキシコ女の子は朝の霧のバスを待っている
そのつば[u]時間ニューヨークの女の子のにやにや笑いは眠る
ローマの男の子は汚れが染まること肯定的な午前中目を閉める

この地面を使って
朝は常にどこかに始まった

に関して朝とそれは放送される
地理的な長さの地理的な長さから
[ekeino] [トン]地面のスピーチの方法で方法によって、それは交替によって保護される
睡眠が、1年耳なる前に、高められる時
どこかに遠いが、それが鳴る警報の時計の鐘ある、[RU
送る今朝でに関して
誰かがそれ確かに触れた要素はある

なんかウィリアム・バロウズの「裸のランチ」みたいな文章になった!!これは結構おもしろいかもしれない。


裸のランチ (河出文庫)
ウィリアム・バロウズ
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おすすめ度の平均: 4.0
4 読書中は面白い
1 げんなり
5 映像を見るための道具 あと、スティーリー・ダンのファンの方へ
5 フリージャズ
4 Naked Lunch is the ultimate cut-up/quote bible/scrapbook
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