虚構とエンターテイメント




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ちょっと前に話題になったジョークで「月極定礎ホールディングス」というやつがあって、これはひさしぶりに面白いなあと思った。

どういう内容だったかっていうと、駐車場とかによくかいてある「月極」というのと、ビルの隅っこについてる「定礎」っていうのは、実はそれぞれ「月極グループ」と「定礎グループ」という企業で、日本中の土地の権利を実は所有してたりする。その二つの企業が大合併したというジョークだったんだけど、そのリリースやウェブサイトがなかなかよくできてたものだから、結構たくさんの人達が信じちゃった。 冷静に考えると、「月極」と「定礎」ってなんだろう?ってぼんやりとした疑問に、嘘の刷り込みをさせているところがうまかったんだなあ。

で、これを見て面白いなと思ったのは、とにかく作りこんだ嘘というのはエンターテイメントになるということ。そもそもフィクションってすべて虚構なわけだけど、さも「事実であるかのように」演出されたものがとにかく面白い。

今回はこうした「できすぎた嘘」をいくつか紹介。


■スパゲティの木

スパゲッティの木は架空の木であり、BBCの時事番組「パノラマ」で放送された、スイスのルガーノ湖近くにおけるスパゲッティの収穫という3分間のいたずらレポートの題材である。 このレポートは1957年にエイプリルフールのジョークとして制作された。暖冬とスパゲティゾウムシ(架空)の駆除によってスイスのスパゲッティが豊作であることが紹介され、伝統的な「収穫祭」の場面では交配の必要性についての議論が放送された。
また、著名なアナウンサーのリチャード・ディンブルビーによるボイスオーバーによって、もっともらしさを演出している。パスタは1950年代のイギリスにおいて日常的な食品ではなく、主に缶詰のトマトソースのスパゲッティとして知られていた。一般には異国情緒ある食べ物とされていた。
<中略>
この話は「パノラマ」のカメラマン、チャールズ・ド・イエーガーが子供の頃にオーストリアの学校で、教師にスパゲッティが木に成ると信じるほど馬鹿だとあざけられた記憶から思いついた。
放送された4月1日に概算で800万人が視聴し、翌日には話の信憑性やスパゲッティの栽培方法、スパゲッティの木の育て方を尋ねる数百件の電話がかかってきた。伝えられるところによれば、BBCは「スパゲッティの小枝をトマトソースの缶に入れて上手くいくように願ってください」と回答した。- wikipedia

■サンセリフ諸島

sanserriffe.gif San Serriffe
1977年4月1日の英紙『ガーディアン』には、サンセリフ (San Serriffe) と呼ばれる架空の島国の近況を伝える7ページの追補記事が含まれていた。記事はこの国の独立10周年を祝う内容だった。同紙が伝えるところによれば、サンセリフはインド洋のセーシェル諸島近くに位置するが、ある特殊な海流の影響と浸食作用によって、その位置は変化しつつあるとされていた。この島国の首都はボドニ (Bodoni) で、ほかにはクラレンドン港 (Port Clarendon)、アーリアル (Arial) といった地名が存在するとされていた(サンセリフ、ボドニ、クラレンドン、アーリアルは欧文の書体名である)。
記事は広告とも連携した凝ったもので、たとえば石油会社テキサコの広告で開催が案内されていたコンテストでは、2週間のサンセリフ旅行が賞品となっていた。この記事が掲載された直後、『ガーディアン』編集部にはサンセリフに関する情報を問い合わせる電話が殺到したという。 - wikipedia

このあたりの海外の粋な嘘はThe Museum of Hoaxesの中のThe Top 100 April Fool's Day Hoaxes of All Timeが面白いよ。タコベルが国の負債を減らすためにペンシルバニア州にある「自由の鐘」を購入し、新たに「タコ・リバティ・ベル(タコスの自由の鐘)」と名づけた、というジョークをエイプリルフールにリリースしたらシャレが通じなくて大炎上、とかそういうバカみたいな話がたくさん載ってる。


The Museum of Hoaxes
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■アイアンマウンテン報告

ノンフィクション形式で書かれたでっちあげ文書というものがある。1967年に出版された『アイアンマウンテンからの報告:平和の可能性と望ましさについて』が挙げられよう。これは、1966年に『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載された「平和への怯え」から株価が暴落したニュースに刺激され、ポール・リュインらがでっちあげたニセの報告書である。執筆には多くの学者やジャーナリストが協力したとされ、経済学者のジョン・ケネス・ガルブレイスもそのうちの一人だったといわれる。この報告書は、ある政府機関からの依頼で民間の調査委員会がまとめたものとして書かれ、戦争が消滅し完全な平和状態が実現されたあかつきには社会が崩壊すると結論付けていた。そして、戦争肯定的とも受け取られかねないその過激な論旨から、発禁になったのだと設定されていた。これは極端な戦略思考に貫かれたシンクタンク報告書の書式を徹底して模倣したパロディだったが、出版された当時、多くの政府関係者がこの報告を本物だと考えたという。 - wikipedia

ちなみに、ここ(pdf)で山形浩生による日本語訳がまるごと読める。


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■蚊ハンター

本来事実を伝えるものである「記事」や「レポート」、「ドキュメンタリー」というフォーマットをうまく利用することで「そんなバカな」という面白さを利用したものとしては、モンティ・パイソンの「蚊ハンター」の生態をドキュメントするジョークを思い出した。オチもいいんだよね、これ。そういえばスパゲティの木とかサンセリフもイギリスだね。こういうジョークのセンスは素敵だ。


■カノッサの屈辱

これは日本の事例。上記同様、教育番組のフォーマットを流用した例。現代の出来事を歴史上の出来事に無理矢理あてはめて解釈し、教育番組の体裁で紹介してる。かなり忠実に教育番組の雰囲気が再現されていて秀逸。80年代後期〜90年代初頭の深夜番組にはアイデアがいっぱいつまってる。


■フェイク・ドキュメンタリー/モキュメンタリー

こうしたドキュメンタリーの体をしたフィクションをフェイク・ドキュメンタリーとかモキュメンタリーって言うらしい。wikipediaの「モキュメンタリー」の項目にフェイク・ドキュメンタリーの作品がズラリとならんでて勉強になる。「食人族」や「ブレアウィッチ・プロジェクト」「ボラット」など、そういえばあの映画もそうか!という発見があって面白い。

お笑いのDVDだと、マッコイ斎藤監督作品がモキュメンタリーの手法を駆使していて抜群に面白かった。


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■虚構記事

百科事典などに虚構が紛れ込むこともあって、これを「虚構記事」と言うらしいのだけど、これも調べれば調べるほど面白い。面白いなと思ったのが虚構記事の実用性について。百科事典などは、丸ごと盗用されたときに不法性を立証するためにあえて誤った情報を忍ばせておくらしい。地図でも同様のことが行われていて、本当は実在しない道を書き加えておくことで、勝手に地図が流用されていてもコピーされたものかどうか判断がつくようになっているらしい。これをトラップ・ストリートと呼ぶとか。

当然wikipediaにもいくつもの虚構記事があって、下記のページでは既に削除されてしまった虚構記事をまとめて見ることができる→wikipedia:削除された悪ふざけとナンセンス

このあたりが独立して、とにかく悪ふざけとナンセンス記事ばかりを集めたのが「uncyclopedia」。こんな感じでとてつもない労力と才能をもってくだらないでっち上げ記事が日々アップされている。

自宅警備員
ひよこ陛下
エクストリーム・スポーツ

などなど...


虚構を表す英語はFabrication。これはラテン語のFabricare(製造する)という言葉が語源らしい。で、語源を同じくする英単語にFabricという言葉があって、これは織物を示す言葉なんだけど、虚構となるためには、まさに織物のように細かい部設定を積み重ねていくことが大事。ここがしっかりと編みこまれていないと上で紹介したようなエンターテイメントとして楽しめるものにはならなくて、単なる嘘になっちゃうんだと思う。

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