楽器とかインターフェイスの話




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ピアノがうまいとか、ギターがうまいとか、ドラムがうまいとか、「音を出す」っていう根本的な所を考えれば、ウマ/ヘタはあまり関係ないはずなんだけども、例えば譜面のような「演奏を再現する」という目的がある限り、その精度によって「うまさ」というのはどうしても測られてしまうわけだよね。もちろん、そういった「うまい」演奏というのは、それはそれで見ていて気持ちいいし、高揚したりもするんだけど、今回注目してみたいのは、そういった「うまい」演奏ではなくて、そこから逸脱しているもの、例えば本来楽器ではないものを楽器にしている、本来の使い方とは違う方法で演奏している、ようなもの。こうした一風変わったテクニックの中に、人と楽器のインターフェイスを考える上でのいろいろなヒントが隠されているような気がしている。


本来の用途とは違う使い方をしている代表格として、レコードをこする事で音を出すスクラッチがあげられると思う。

C2C DMC 2005


最初のこの映像はスクラッチのDMC World DJ Championshopsの常連、フランスのC2Cのルーティン。ラウンジーな感じでおっしゃれー。

Birdy Nam Nam - Absesses


これもフランスのBirdy Nam Nam。なんかフランスってこういうターンテーブリズムみたいなのが流行ってるのかな。ギターの音のピッチをゆらして演奏してるところに注目


本来レコードプレイヤーをこするというのがスクラッチだったけど、針で溝を読み込み、増幅するというレコードの構造ってよく考えたらヘッドで磁気テープを読み取るテープと同じなんじゃない?っていう発想でやってるのがこの人。

DJ Ramsey Scratch Tape Decks


カセットテープでスクラッチ。テープ独特のコンプレッションがかかった、ぶっといローファイな質感がかっこいい。


これをオープンリールでやってるのがこの人たち。

Open Reel Ensemble


オープンリールをネットワーク経由で操作したり、かなり面白いことやってる。そういえば、最近はDSPベースの処理で行われてるからすっかり忘れられてしまっているけど、オーディオエフェクトの定番であるディレイやフランジャーっていうのは、本来オープンリールの物理特性を利用したものだったんだよね。これはちゃんと調べてみないとわからないけど、元々ディレイやフランジャーってオープンリールで想定していなかった使い方をする中で出てきた発想なんじゃないかな。

この映像の最後でも出てくる引用は今回の記事のテーマと直結してるかもしれない。

産業的価値とは異なる使い方をした道具(テクノロジー)を<コンヴィヴィアルな道具>と呼ぶ。それは、想像力の結果として環境を豊かなものにする最大の機会を与える。 - イヴァン・イリイチ

うーん、イリイチの「コンヴィヴィアリティのための道具」が読んでみたくなった。


コンヴィヴィアリティのための道具
イヴァン イリイチ
日本エディタースクール出版部
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5 埋もれてしまった本
4 自立共生的な社会へ向けて

最近ではオーディオ関連の技術の進歩とともに、サンプリングベースで音楽がつくられる事も多くなってきてる。要するにサンプラーの登場によって、サンプリングしたあらゆる音をパットに割り当てて、演奏するっていうスタイルがでてきたわけだ。たとえばスネアの音を出すのにスネアドラムをたたかなくていいし、シンバルの音を出すのにシンバルをたたく必要が無くなって、すべてスイッチ一つで鳴らせるようになった。(これは蓄音機の発明は楽器そのものと音を引き離してしまい・・・というメディア論の延長線上にデーンとのっかってる一大トピックスでもある。)一番有名なのはAKAIのMPCっていう機材で、どういうわけかこの機材でサンプリングすると音が太くなるとか、そういうちょっと怪しい噂とかもありつつ、ヒップホップとかハウスの人がよく使うようになった。僕は、このヒップホップとかハウスの人たちが多く使ってたっていうのが重要だと考えているんだけど、つまり基本的にどちらもモタりやハネといったグルーヴ感(後述)が重要になってくる音楽だから、それを手っ取り早く再現するためには打ち込みじゃなくて、パッドを叩くっていう身体と直結したインターフェイスが必要とされたんじゃないだろうか。

Aswell-live mpc work


このテクニックは相当すごいと思うんだけどMPCユーザーの方からみたらどうなのかな?まずサンプルの位置がおぼえられないよねw


上記のような映像が、そもそも「想定された」MPCの使用方法なんだけど、ここからさらに(おそらく)想定外の使い方をしている人がでてきていて、すごく面白い。

DiViNCi of SoS breaks down his MPC soloing...


スネアのサンプルの尺をほとんどノイズになってしまうぐらい短くして、フットワウでフィルターをかけてまるでギターのように演奏してしまっている。けっこう独特でかっこいい。


今度は逆に、MPC的な使い方を想定していないシーケンサー内蔵ドラムマシンのボタンを手でペケペケたたいてめちゃくちゃ細かいリズムを刻んじゃってる人がでてきてる。

More from the Amazing David "Fingers" Haynes


スクエアプッシャーばりの刻みの細かいビートをドラムマシンのマニュアル操作でばっちりこなしちゃってる。こういうの見ちゃうと、やっぱりリズム感覚ってすごい才能だなあと思うよね。


で、David Fingers Haynes見て思い出したのが、ネタっぽいけどこの映像。

Drums on Keyboard


MIDIの登場で、ドラムの音もコンピューターの信号で操作できるようになると、まず入力デバイスとして手短なキーボードにドラムの音をマッピングしたわけだ。そうなると普通のドラムキットとは全然違う操作性とテクニックが必要になってきて、その時点でドラムの進化系図がパカッと割れて、キーボードドラムっていう進化を歩むことになる。全然関係無いけど、こういう「突っ込まれビリティ」の高い映像ってニコニコ動画とかでネタになってミーム化していきそうなポテンシャルを感じる。後半は確実に「ちょwwwww」でうまるでしょ。なまりもいい感じだなあ。

Best drummer in the world on keyboard!


キーボードドラムは色々映像があがってて面白い。この人も上手。普通のドラムを模倣するっていうだけじゃなくてキーボードドラムでしか鳴らせない手癖が見えてくる。そこが面白いところ。


あとは本来楽器ではないものを楽器にしている突然変異を紹介。

"Balloon Bass/Juicy Brunette"


風船と輪ゴムでベースを演奏。風船につけたマイクで音をひろってるらしい。なかなかいい音してる。


CLASSIC Larry Wright Documentary: Origins of an New York City


ニューヨークの地下鉄でプラスチックの缶を叩いて演奏してるLarry Writeっていうストリートドラマーのドキュメンタリー。確かアーメンビーツみたいなダークコア系ドラムンベースとかガバ系のサンプリングの定番になってるシュタルトンビーツ(だったっけ?)っていうのがあって、それはゴミ箱をたたいた音が元になってるって話を思い出した。

Best Street Performance Ever!


こういうのを「バケッドビーツ」とか「バケットドラム」っていうみたい。アフリカンパーカッションっぽいやつや、ドラムンベースっぽい感じのプレイもあって、色々探してみると面白い。


世の中どれだけデジタルになっても、インターフェイス(コンピューターと身体との接点)があるかぎり、こういう神業(想定外の使われ方)は生まれ続けるし、そこが入り込む余地があるところが面白いところなんだと思う。

例えば、音楽でリズムのノリを表すのにグルーヴ感という言葉があるけれども、分析していってみるとグルーヴ感というのは、実はドラマーの手癖によって、微妙にペースがモタったり前のめりになることや、譜面にはない音が小さい音が間に鳴ってる事によって生み出されているということがわかる。つまり音楽のノリ、というのは本来、人間ならではの「ゆらぎ」や「なまり」、ある意味「エラー」によって生み出されていたわけだ。そうしたエラーをコンピューターでシミュレートするのも一つのあり方だし面白いけれども、やっぱり最後の最後まで身体性を介在させるほうが面白いだろうなと個人的に思うのは、今回紹介したような予想外に使い方をするユーザーがでてきて、そこに音楽的なヒントが隠されていることがあるからだ。例えばTB-303につまみがなかったらあのアシッドサウンドは生まれただろうか?とかそういう話。


僕の好きな作品に、Blendieという作品がある。声に反応するフードプロセッサーで、声の大きさに反応して回転速度を変えるというシンプルなものなんだけど、これが面白いのは、適度な回転速度で一定にするためには、自分の声の大きさを一定にしなければいけないこと。多分ユーザーは最初はうまくいかないんだけど、何度かためしているうちに要領をつかんで、うまく声をだすようになってくる。人の声に応じてミキサーの回転数は変わり、音が変わるので、まるで機械と会話してるみたいに見える。

Blendie: a voice controlled blender

Blendie

インターフェイスってこんな風に、いかに機械と人間を会話させるかを設計することなんだってことに気付かせてくれる良い作品だと思う。こんなことをすれば、こんな反応がかえってくる、それではこうすると?もっとめちゃくちゃなことをするとどうなるだろう?ユーザーが想像し、機械と会話を試みる中で、新しい発見がある。その会話の手段がてっとりばやいっていう点において、インターフェイスにとって身体性ってのはすごく大事だと思う。

最近はタッチスクリーンをはじめとして、人間の動きをデジタルのインターフェイスに落とし込むためのセンシングの技術が進歩してきているから、どんな風に身体性を生かした楽器がでてくるのか、そしてまた、そのインターフェイスを逆手にとったどんな演奏がでてくるのか楽しみ。

で、その実験をおこなう場として、いろんなセンサーがくっついているiPhoneはめちゃくちゃ面白いと思っています。iPhoneについてはいろいろ考えてることがあるので、気が向いたらそのへん書いてみたいと思いますよっと。

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