立体音響の世界




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例えば寝ている時、蚊が飛んでいると、頭の上のどの辺りを飛んでいるか分かるのは何故だろう。耳は二つしか無いのに、どうして自分のすぐ側に蚊がいることがわかるのだろうか。

これを説明する時、実は人間は音源(例えば蚊の羽根)の音を直接聴いているわけでは無い、という事がとても大切になってくる。つまり、音源から発せられて、人間の鼓膜に到達するまでに、音は人間の頭部や外耳によって音は歪まされているという事。音が到来する方向によってこの歪み方が異なり、人間その違いによって音が到来する方向を脳内で判断しているというわけだ。(ちなみに、この頭部や外耳による音の歪み方を数値化したものをHRTF(頭部伝達関数)と呼ぶ。)

Binaural(バイノーラル)とHolophonics(ホロフォニクス)という立体音響技術がある。(Holophonicsは、Pink Floyedが採用した立体音響技術として一部では有名かもしれない)BinauralとHolophonicsは録音方法自体は似ていて、まず上記のHRTFを再現するために、ダミーヘッドの耳の部分にマイクを埋め込み、録音する...こうすることによって普通のステレオマイクで音を拾うよりも、頭部や外耳による音の歪みをシミュレートしている分、より人間が音を聴いている状態に近くなるため、その音をヘッドフォンで聴いた時に、とてつもない臨場感が味わえる。

BinauralといえばCorneliusの「Fantasma」に収録されている「Mic Check」はBinaural録音の音源として有名かも。ビニール袋被されたりするんだけど、かなりリアルで気持ち悪い。この「Mic Check」で使われていたのが「藤原マイク」と呼ばれる二つの耳がくっついたような、けっこうショッキングな形をしたポータブルBinauralマイクで、これを開発したのはサウンドアーティストの藤原和通さんという方。(ウゴウゴルーガの「おとのはくぶつかん」をやってた人といえばピンと来る人もいるかも?)メディアアーティストの岩井俊雄さんやデザイナーの祖父江慎さんとタッグで、京都にOTOKINOKOという音を売る店(こちらに詳しいレポートあり)をプロデュースしていたり、Binaural録音でアダルトビデオをつくったり(笑)、色々と面白いことをしてるみたい。
→実際のBinaural音源はココとか、結構いろいろなサイトで聴ける。

それから、Holophonics。Holophonicsの特徴は、何といっても背筋がゾクゾクする(本当にヒヤリとする)ほどの臨場感。Binauralもかなりリアルなのだけど、Holophonicsで録音された昔の音源と聴き比べてみると、その差は歴然。Holophonicsを開発したHugo Zuccarelli博士がプロモーション用に販売していた「Aldebaran」(現在では入手は困難)という音源で、ドライヤーをかけられる部分ががあったのだけど、これは本当にリアルで背筋がゾクゾクするし、髪が熱くなってくるような気さえする。そのHolophonicsの原理はというと...実はHolophonicsの技術は、「当時の様々なテクノロジーを改変してしまう可能性がある」という理由で秘密とされており、Holophonicが発明されてから随分経った今でも謎のままらしい。録音方法はBinauralとほぼ同じらしいのだが、さらにそこに魔法の関数を加えているという噂。う?ん、謎だ。
→ネット上のHolophonics音源は結構少ない。今のところ、ココや、ココで聴ける。ヘッドフォンを装着して、いざ。

以前この記事でも指摘したように、映像も音も静止画も文章もすべてがチャンポンになっている今の状態であえて一つのメディアに絞るという試みは逆に新鮮だったし、今後、情報を絞る事は無くとも一つ一つの情報の解像度を上げていく事が必要になってくるの事は間違い無いのだから、こういった3D音響の技術は今後も注目されてくるんじゃないかと思う。

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